死んでもあなたに恋してる 2話

「ここはどこ?」

「やっと目覚めたかい?何でここにいるのはわかるかい?」

「それが何が何だか」

「最初は誰もそういうのさ」

「君自身の記憶をのぞいてみると言い。最後の記憶をね」

少女が目覚めたのは青空のもと何もない草原その中央に木が立っている。そこには見知らぬ男が立っており、少し話すといきなり水晶玉を取り出し少女に見せた。

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―葬儀場―

今日は水咲の告別式。

水咲の母が喪主を務める。受付にいるご両親に挨拶をして席に着く。この時春樹は1人できていた。他の4人とも今は顔を合わせる気分にはなれなかった。

告別式は春樹にとっては地獄の時間だった。今まで当たり前のように目の前にいた人が永遠にいなくなって遠く手の届かないものになってしまいそうで、彼女の顔すら見たくなかったが春樹の家族や友達の呼びかけもありこうして出席している。人は本当に悲しいときは涙も出ないと誰かが言っていたことを思い出す。前は全力で泣くものだろうと思っていたが、

「こういうことか」

春樹はつぶやく。なにも考えることができず告別式が終わり、通夜振る舞いに移る。席に移動している時、春樹と4人が合流。今日は誰とも話したくなかったんだがと思っていると、ご遺族も寄ってきた。今は最も春樹は話したくない人であったが。沈黙する春樹達に一言、

「ありがとうね。水咲も天国で喜んでるよ。あなた達が水咲のお友達でよかった。春樹君ありがとうね。水咲は家に帰ってきたら春樹君のことばかり話しててね、すごく楽しそうにしてて本当に幸せだったと思う。あなたが水咲と付き合ってくれて本当に、ほん、とうに、、、う、うううっ」

「無理をするなよ。すまないね君たち。つらい思いをさせてしまったね。僕からも言わせてくれ、本当にありがとう。」

堪えきれずに涙を流す母をそっと方で抱き寄せる父。その二人の表情は何物にも言い表せないほどにいろいろな感情が渦泣いているように感じた。

(俺たちを励ましてくれているのか一番つらいはずなのに。)

そう思うと春樹は葬儀場を飛び出していた。

「おい!春樹!」

達也が呼びかけるも反応はなく、彼は止まらなかった。

「春樹あいつ」

追いかけようとした達也の手を一つの手が掴む。

「おじさんなんで!通夜は出なきゃ!」

「今は一人にさせてあげよう。彼はまだ高校生なんだ。煮え切らない思いがあるんろう。」

「わかりました。ごめんなさいおじさん。おばさん。」

通夜は出るのが基本的に常識だ。そこにはご遺族の感謝が含まれている。親しいものであったならなおさらだろう。そんなことは春樹もわかっていた。しかしどうしてもあの場にこれ以上留まることができなかった。

春樹は近くの公園のベンチで座っていた。春樹はこれまでの水咲との思い出を振り返っていた。いろんなことをした。普通に公園であそんだり、ご飯を食べたり、買い物をしたり、映画を見たり、水族館に行ったり、海に行ったり、家に行ったり思い出にすると数えきれない。そんな思い出に浸っている時、4人の足音が近づいてくる。

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「これ私の告別式じゃない」

「驚いたな。意外と冷静なんだな」

「えー。人って死ぬとこんなもんなんじゃないの?それにこんなこと言ったらお父さんやお母さん、それに春樹達だって怒るかもだけど残されるよりはましかなって思っちゃうのよね。」

「以外にドライなんだな」

「でも生きたいのは生きたかったよ。春樹とあんなことやこんなこともしたかったしね?でもやっぱりまだ実感がないっていうか。」

「ゴホン。いい悪れていたけど君の想像は今だけ君に入ってくるんだ。少し不適切な発言は慎んでもらおうか。」

「え?うそーーー!いじわる!」

自分の想像を覗かれ顔を赤らめる水咲。この謎の人物との会話が自分の死んだことを決定づけていることに少々残念がるも実感がないからかあまり悲しみや悔しさなどの感情がわかないのも事実。これは殺される前の記憶を失っているのも1つの理由としてあるだろう。

「それで?ここは天国でいいの?」

「そうだな...」

男は少し考えて続ける。

「そうとも言うし、そうとも言わない」

「どういうこと?」

「特に名称なんてないんだよ。死後の世界っていうのが一番合っているのかもしれないけど、君たちで言うところの黄泉の国やら冥府やら天国やら地獄やら好きな名前で呼ぶといいよ。」

「そう。特に名前はないのね。じゃあ水咲界なんてどうかしら」

水咲は真顔で言う。笑子と2年半くらい共に過ごしてかなり侵されてしまったのか少し心配してしまう。

「君は自分で言っていて恥ずかしくないのかい」

「冗談よ!私の仲いい友達だったらそういうかなってね」

「そうか。まあ無駄話も私は好きなんだが、時間もない。これから行ってもらう世界を選ぶとしようか。」

そう言うと男は水晶玉を取り出す。

3話へ続く

ユニバース 3話

「う~。」

明流は目を覚ます。

「俺死んだはずじゃ...」

起きた先は見知らぬ部屋。明るい鉄製の部屋にテレビが一台。痛みは不思議と感じない。あれはかなりの重傷だった。レスピレーターやら輸液ポンプがついていても不思議ではないのだが。そう考えていると扉が開く。

―ウィーンー

「やっと目を覚ましたかい」

目をやると聞き覚えのない一つの声がやってくる。

「あんたは誰だ!アイツの仲間か!」

「いやだな~。いきなり威嚇か~」

「落ち着け!」

そこに現れたのは呂亥だった。

「なんだお前がここに?」

先ほど起こったことと現在の不思議な光景に情報量が追い付かない。そう考えていると呂亥はいきなりテレビをつけ始める。

―10月12日の午後3時頃に起きた七山高校(ななやま高校)の宇宙人襲撃の事件で木崎陽史(18)、圓谷光莉(18)の2名の死亡が確認されました。―

「なんだこれ。」

「ちなみにこれは録画な。お前には早く伝えようと思ったんだがな俺の口から言うのが少し気が引けてな。」

「お前は学校にいなかったのか!なあ!何でお前がいてこんな...」

怒りで彼を忘れた明流は呂亥の胸倉を掴む。

「話は最後まで聞くものだよ明流君。」

「あんた誰だよ」

「これは紹介が遅れて悪かったね!私は宇宙軍アジア管轄、総司令官且日本支部支部長風見操磨(かざみそうま)。よろしくね!日本支部のみんなからは支部長って呼ばれれるから君も支部長って呼んでくれもいいよ!」

(なんなんだこのテンションの高い人は)

明流は育ての親を失い、今かけがえのない友人すら失った。そんなときにこんなテンションで自己紹介するなんて不謹慎に他ならない。しかし彼は続ける。

「まあ君が起こるのも無理はないだけど話は最後まで聞こうか!君があの日倒れてから今は1週間が経った。いろいろ言いたいことはあると思うけどまずは聞いてくれ。君が寝ている間に何が起きたのかを。」

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―明流が倒れた直後―

「ふぅ~手間取らせやがって。剣にこんな力があるとはな。しかしこんなに危険なことがあるなんてな。旦那も言ってくれればいいのにな。」

何やら文句をたれながらゴストロ・ブラトンが剣を手に取る。

ザクッ!

「痛っ!」

剣がいきなり動き出しブラトンに反撃したのだ。

「お前らの好きにさせて堪るか!」

剣がしゃべりだし、さらに反撃する。

「ほほぉ~こりゃおもしれーや!剣がしゃべんのか!」

しかし剣も満身創痍。動きが遅い剣の動きをかわしブラトンは一撃のこぶしを喰らわす。

「おーい。もう終わりか―」

「くそ!俺が油断しなければこんなやつ...」

そして剣からの反応はなくなり、ブラトンは剣を手にしようとすると、

ブン!

衝撃が後ろから突き刺さる。思わず吹き飛ばされると、

「そこまでだ!」

ブラトンは後ろからの1つの声と複数の気配に気づき振り返る。

「ヘッ!ずいぶんと遅いご到着だな!」

「お前こそ余裕そうだな。A級犯罪者ガストロブラトン!」

「俺の名前を知っているとはお目が高いな~」

「お前が明流を、明流の祖父母を...」

「待て!呂亥!」

怒りに任せブラトンに突っ込む。

「うおおおお!」

ドン!

「なんだこのアリは」

彼の能力は自分の手をかざした方向に衝撃波を飛ばす能力。一見すると強そうであるが、ブラトンはものともせず呂亥は吹き飛ばされる。

「呂亥...お前こんなことしてただで済むと思うなよ!」

「確かにな!いくら俺様でもお前らに束になってかかってこられちゃー厳しいってもんだぜ!ってことでとんずらこかせてもらうぜー」

「簡単に逃がすと思ってるのか!」

「逃げられるから行ってだろうがよ!」

そういって左のポケットからスマホを操作しかと思えば、ブラトンの周囲を無数の霧が包み込む。

「待て!」

そういって支部長は能力を放つも時すでに遅し、ブラトンはそこにはいなかった。聞き間違いかもしれないがブラトンが消える前あの霧の中から「あ、やべ」と言う声が聞こえたが、操磨は特に気にしていなかった。

ところ変わって名もない惑星のとある廃墟。

「ていうわけなんですよ~旦那~」

どうにも情けない声を出すのはブラトン。

「でも失敗は失敗でしょ。認めなさいよ。本当にあんた使えないわね!」

「うるせぇよ!俺はお前に話してねぇんだよ!」

「何よいちいち鼻につく言い方するわね!」

「やんのか?」

「いいよ?初心者にやられて宇宙軍に取り囲まれたくらいで逃げ出すような弱虫に負ける気がしないもん!おまけに剣までおいてくるなんて本当に間抜けね!」

言い争うのはブラトンと謎の女。どうやらブラトンは口喧嘩は弱いらしい。

「二人ともやめろ。」

ビクッ!ある一人の声掛けに驚き黙り込む2人。

「どちらの言い分も正しい。今回想定外が起きすぎたのも事実、対処しきれなかったブラトンも失態も事実。だけど人は失敗をする生き物だよ。俺だってする。仕方のないことなんだ。そのあとは上司がしりぬぐいをしないとね。」

「旦那~」

「まさかインヴィ君じきじきに出るんじゃ?」

「悪いか?もしかして俺が負けるとでも?」

「そんなこと思ってないけど!」

先ほどまでの威勢のいいものいいとは裏腹に急にかしこまる女。

「もちろん一人ではないよ。メル、ついてこい」

「え?私?」

先ほどまで話していた女はメルという名前らしい。いきなりの指名に戸惑うメルにインヴィはお構いなしに続ける。

「これからはお前の能力が必要になってくる。そのための戦力強化には打って付けだ。」

「何するつもりで...」

「明日地球に行くぞ。もちろん2人でな。他のものは待機していろ」

「そんな無茶ですぜ!旦那!」

「時間がないんだよ。やれることは今やるしかない我らの目的のためにね。」

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「とまあ、ここまでが君が倒れた直後の出来事。そして事件は2日後に起きた。君が一番知りたいことだろうね。」

そう言うと続けて操磨は語り出した。

4話へ続く。

ユニバース 2話後編

「誰だ!」

ボロボロのなか明流は力を振り絞り声を出す。

―どこを見てんだよ―

どこから声がしてるのか周りを見渡しても誰もいない。ふと剣を見る。確かに声が聞こえたのは剣のあたりからなのだが、まさかと思い語り掛ける。

「まさか。剣がしゃべってる?」

―やっと気づいたか―

まさかと思ったがどうやら本当に剣がしゃべっているらしい。確かに超能力やら10年ほどまでは非現実だったものが現実のものとなっているから剣がしゃべっていても不思議ではないかと明流は納得する。

「お前何者だ。」

―そうかお前親父から何も聞いてないか。―

「俺の親を知ってるのか?」

―知っているも何も前に俺を使っていたのはお前の親父だよ。アイツは俺のことを使いこなせなっかたんだがな。―

「お前何を知って...」

―とりあえず時間がない。わかってると思うがアイツの能力は背中の刃を飛ばす能力だ。そして背中の刃は体中どこにでも移動できる。だからお前はさっきやられたんだ。今から俺の力をお前に流す。とりあえずアイツを倒せ。細かいことはそのあとだ。―

「おい!話を勝手に進めるな!俺はどうすればいいんだよ」

返答がない。ずいぶんと身勝手な剣だな。と思いつつも自分の体に感じる確かな違和感に気づく。

「あれ?うごける?」

自分の体に感じたことのない違和感を覚える。

「おう?まだ動けるのか?しぶてーやつだな。さっきので死んでれば苦しまずに済んだのにな!まあいい食らえ!」

明流は自分の体を確認する。確かに傷はあるが痛くない。これが力というやつか?明流は目の前の刃に目を向ける。‘見える!‘今さっき感じた確かな違和感の正体。それは自分の体が強化されているということ。自己治癒力、自己免疫力、筋力、体力、柔軟性、動体視力様々な能力が強化されている。明流はさっきとは違い、目で追えるその攻撃をよけるとすぐさま近づき懐に入る。

「なっ!」

「うおおおお!」

そこで剣を一振り。

パキン!金属音が響き渡りブラトンは吹っ飛ばされる。間一髪で結晶を腹部まで移動させ傷を最小限に抑えたのだ。しかし無傷ではなくブラトンも傷を負う。

「くそ!なんだお前今の動き!」

「さあな俺にもよくわからねえよ!でもやっと希望が見えたんだ。お前に負けるわけにはいかねー!」

「お前何か勘違いしてないか?俺はまだ本気を出してないんだぜ?今の俺に一撃入れたくらいでいい気になってんじゃねーぞ!」

そう言うとブラトンの周りに無数の(先ほどとは比べものにならない数の)刃が飛んでいる。

「なんの間違いかはわからねーがもう油断はしない。いいか、お前はたった一度の勝機を逃したんだ。後悔するといい!」

そして無数の刃が明流に向けて発射される。向かい来る刃それを何とか捌いていはいるものの近づくことも動くこともできず防戦一方。

「ほら、さっきまでの威勢はどうした?」

これでは体力は削られていく一方。せっかく手にした力。このまま手放すわけにはいかないがこれではいずれこっちの体力がなくなり最終的にはやられてしまう。

「悔しかったら向かってきてみろよ。」

相手は余裕の様子。確かに立ち止まっていては埒が明かない。決死の覚悟で近づこうとすると。

―待て!―

「お前今までどうしてたんだよ!呼びかけても反応しないし!しかも待てってこのままじゃ!」

―今まで超能力を仕えなかったから仕方ないが弱点はどこかにあるはずだ。それがわからず闇雲立ち向かってもやられるだけだぞ。―

「じゃあどうすれば!」

―だから待てと言っている。―

「なんで!」

―アイツの背中の刃あとどれくらいある?―

「え?あ!減ってる?」

―そうだ。アイツの刃にも限りがあるってことだろう。体の血液を使っているのか。自分だけの特殊な構造なのかどっちにしてもあの刃がなくなればスキが生じる。肉弾戦になればこっち分がある。おそらくアイツが挑発をしてくるもの早くケリをつけたいからだろう。だから今は待つんだ。―

「なるほど。わかった!」

そう話しているうちにブラトンの刃も残りわずか。

「おい!そのままじっと待っていても何も変わらないぞ?いいのか?」

相手の焦りもピークに達している。そして...

「あれ?」

とうとう刃がなくなる。

「くそー!」

肉弾戦になればこっちに分がある。そして明流は高速で移動しブラトンの懐へ。

ザクッ!

「うあー!」

明流は勝利を確信したその時、突如もうないはずの刃が背中に命中。何が起きたのかわからなかった。

「へへっ!これが超能力の戦い方だよ。切り札は最後に取っておくのさ。まさか俺にこんな手まで使わせるとはなやるじゃねーか。あばよ!」

その後無数の刃が明流を襲う。俺の人生はこれで幕引きか。悔しいな。まだ死にたくない。そう思いながら明流は目を閉じた。

3話へ続く

死んでもあなたに恋してる 1話

某刑務所の一室

 

 毎朝俺は知らない女性の夢を見る。それはきれいな女性でいつも俺に笑いかけてくるんだ。でも夢の最後で彼女は死んでしまう。目覚めると俺は涙を流している。

 

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「おっはよ~」

 

「おはよ~。達也(たつや)~」

 

「ん?春樹(はるき)今日元気ねーな。どうした?」

 

「それは決まってるだろ。今日は何の日だ?」

 

「今日?」

 

「入学式でしょ?新しい環境で馴染めるかが不安なんでしょ?春樹転校してきたときだって私たちが声かけるまで一人だったもんね」

 

「大丈夫だよ。俺らがいるだろ」

 

「そういう問題じゃねーだろ。同じクラスにならなきゃ意味ねーよ」

 

「なんでいつもあなたはそうなのよ!待ちに待った高校生よ?JKよ?新しい環境!楽しみで仕方ないわ!」

 

「俺らはDKだけどな。それとなこいつはなお前みたいにメンタルは強くないんだよ。まぁその話とは別としてだな、お前は中学校時代デビューに失敗している。だから高校は抑えめに行った方がいいぞ」

 

「わかってないわねー。それはアイツらがセンスがないのよ。次は成功して見せるわ!」

 

「もういいよ。勝手にしろよ。別にどうでもいいし」

 

「大丈夫よ笑子(わこ)~。失敗しても私がいるからね~。安心して挑戦してきてね!」

 

「詩織(しおり)それは性格悪くね?」

 

「いいの、いいの~。それに大分やる気よ?」

 

「あーアイツは単純だからな。まっ、とりあえず春樹は自信持てよ!なんかあったら俺らがついてるしな!」

 

2019年春。桜が舞う中登校している4人組は今日から高校の入学式らしい。今日を楽しみにしている者、少し緊張している者、何も考えていないもの、少し憂鬱な者いろんな人が入り乱れる。そんな中彼らは、外に張り出されているクラス分けの書いてあるボードに目を向けようとしている。

 

「おはよ~」

 

「あー院長遅かったね!」

 

「今日は少し忙しくてね」

 

みんながボードに注目しようとしたところでもう一人が合流した。「院長」はもちろんあだ名である。近くの町医者の子供なのだろうか。詳細はわからないが全員がそろったことろで再びボードに目を向ける。

 

「あった!2組!」

 

と詩織。それに続き達也も声を上げる。4組である。

 

そして

 

「あった。5組だ」

 

と春樹。そして次の瞬間絶望した。

 

「私5組!てか私と春樹同じクラスじゃん!宜しくね!」

 

と笑子。よりによって一番なりたくない人となってしまったと思っているかのように春樹は落胆する。

 

「よりによって最悪な組み合わせだな」

 

「だよな」

 

達也が小声で春樹の思いを言葉にしてくれた。

 

「院長は?」

 

春樹が最大の期待を込めて質問した。

 

「1組。」

 

院長の返事に言葉も出なかった。春樹はこの先が不安で仕方なかった。

 

「大丈夫よ!私がいるじゃない」

 

「だから不安なんだろ」

 

達也が春樹の気持ちを代弁してあげる。

 

と、そんなこんなで決まったものは仕方のないことで、みんなと別れ春樹と笑子が教室に向かう。もちろん教室まではみんな一緒のはずだが面白がっているのか3人は離れて春樹たちを見ている。

 

 4階建ての校舎の1階は行ってすぐに下駄箱があり、自分の位置を確認すると靴を下駄箱に入れたら持ってきた上履きに履き替える。そして一年生の教室は4階。4階まで登る足取りはかなり重い。一歩一歩進むごとに新しい環境が近づいていることへの不安で胸が張り裂けそうになる。笑子にそんな気持ちなどわかるはずもなくデリカシーのない発言をする。

 

「春樹楽しみね!もうすぐで教室よ!」

 

春樹はそんな笑子の言葉を無視する。しかし笑子は止まらず話し続けるが、春樹はこの時笑子と話をする余裕がなく、笑子と知り合いと思われないようにしようとすることに必死だった。

 

そして教室に入ると途端に

 

「みんなおはよう!荒井笑子です!よろしくお願いします!」

 

自己紹介を始めていた。もちろん春樹は知り合いと思われないように少し驚いた顔の演技をしながら静まり返った教室みんなの引いた視線が気になるが、‘俺にではない‘と自分に言い聞かせに入っていく。

 

「待ってよ~春樹」

 

俺の名前を呼ぶな!心の中でそう叫ぶ。自分の席を即座に確認し、寝たふりを決め込む。

 

「もうつれないな~」

 

少し寂しそうな笑子の声に少し罪悪感もあったが春樹はそれでも寝たふりを決めた。

 

「あの~」

 

春樹は肩をたたかれる。少し不機嫌に顔を上げると。ガタン!と音が響く。春樹が椅子から転がり落ちたのだ。決してバランスを崩したわけではない。

 

「あ!ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

隣には大きいクリっとした目に整った顔立ち。それをさらにロングヘア―が引き立てている。今後かかわることのないであろうほどの美人である。そんな彼女がこんな底辺の自分に何の用であろうか皆目見当もつかない。

 

「いえ、だ、大丈夫です!」

 

注目を浴びる中返事を返す。人見知りであまり目立つことを避けている彼も周りからの視線が気にならないほど目の前の彼女に釘付けになっていた。

 

「初めまして!私、磯村水咲(いそむらみさき)です。よろしくね!」

 

「俺は川口春樹(かわぐちはるき)。よろしく」

 

「実は私最近宮崎から引っ越してきたんです。なので千葉県には高校からでここら辺のことは何もわからないんです。知り合いもいなくて...」

 

「そうなんだ。実はそれも中学校の時転校してきたんだよね。俺人見知りだからさ、大変だったよ~」

 

水咲と春樹は会話を始める。転校の話や何の部活に入るかなど話題は色々。彼女はコミュニケ―ション能力がかなり高かった。それは人見知りな春樹に‘俺実は初対面の人とも話せるんじゃね?‘と思いこませるほどに。無論勘違いしないでほしいが春樹は人見知りなだけでコミュ障ではない。話を振ってもらったり多少仲良くなれば話が弾むポテンシャルは持ち合わせている。もちろんコミュニケーション能力が特段高いわけではないが。春樹が会話に夢中になっていると一人の男性がドアを開けて入ってきた。

 

「みんなおはよう!」

 

ホームルームが始まる。もうそんな時間かと春樹は少し落ち込みつつ先生の顔を見る。若く顔立ちの整っている男の先生。その容姿は20代後半か。服装はジャージで声には活気がある。たぶん体育教師だろう。そう思いながら自己紹介の続きを聞いていく。

 

「私の名前は一番ケ瀬慶一郎(いちばんがせけいいちろう)です。名前が長いからみんなからは‘がせ‘とか‘けいちゃん‘と呼ばれてます。適当にみんなも適当に呼んでね。あ、ちなみに一郎だけど次男です。好きなことは体を動かすこと。教科担当は体育です。教師2年目で初めてクラスを受け持つことになるからいろいろ間違えることあると思うけどみんな宜しくね!」

 

それなりにユーモアもあって元気で慶一郎先生はいい人そうな人だなと春樹は思った。「この先生は当たりだな。」

 

水咲に話しかける。

 

「ね!いい人そうだね!」

 

そう話していると慶一郎先生は続ける。

 

「まず最初に自己紹介を始めようと思うんだけど、普通にやったらつまらないから自己紹介の後に最近会った面白い話を話してもらいます。では最初は荒井笑子さん!」

 

この時、‘この先生は外れだ‘と春樹は思った。

 

その後の自己紹介。トップバッターの笑子。

 

「初めまして。荒井笑子です。よろしくお願いします。好きなことは楽しいことで将来はお笑い芸人を目指しています。一発ギャグやります!コネマンティス、コネマンティス、トランティス!」

 

・・・

 

訳の分からないことを叫び髪を大幅に揺らし変顔をする。生徒たちは沈黙する。正直ちょっと面白かった。でもここで笑ったら負けだと思った時

 

「ふふっ」

 

と笑い声が隣から聞こえた気がしたがそこはあえてスルーした。きっとここにいる生徒はみんなこいつとは関わらない様にしようと心に決めたのだろう。そう思っていると

 

「ありがとうござました。」

 

と笑子。何事もなかったように平然と自分の席に座る姿にさすがのメンタルだなと感心していると笑子の黒歴史とも言える自己紹介の後次の生徒の自己紹介は予想通り平凡で面白くはないが無難な話で終わった。そして次は

 

「初めまして。磯村水咲です。」

 

生徒たち、特に男子生徒たちがざわつく。春樹は焦りを覚えた。彼女の可愛さにが全員にバレテしまうと。水咲は続ける。

 

「好きなものはハンバーグで嫌いなものは虫です。最近あったことは引っ越しです。私実は長崎から引っ越してきたんです・・・」

 

とまぁ引っ越しの話を少し挟んだところで自己紹介終了。それから自己紹介はアットホームな雰囲気で無難に終了した。そうなったのはおそらく笑子のお陰でありそこは笑子に感謝したい。無論先ほどの教室に入って一番の挨拶を許すことはできないが。

 

軽く自己紹介を終えると、次は入学式だ。この学校は少し変わっていて入学式の前に少しクラスに馴染んでから入学式を執り行うという親切な学校で少し珍しい。しかしその親切もこの担任の所為で微妙な空気が流れているのも事実。無難に終わったとはいえ即興で面白う話を言える人が一高校生としてそんなにいつはずもなく終始クラスは静まり返っていたのだから。この時ばかりはこの学校の親切心を少し恨んだ。

 

入学式の席では水咲と離れてしまい、そのことにすこし残念に思うも入学式を無難におえ、帰りのホームルームを終え帰宅となった。高校一日目だからか早く終了し、日時は午前の11時。みんなと校舎の前で待ち合わせをして下校する予定だ。

 

「また明日!」

 

「うんまた明日!」

 

「水咲~」

 

笑子が水咲に話しかけている。入学式で仲良くなったのだろうか。笑子が話しているせいで水咲に話したい人がなかなか話せない状況は‘笑子ナイス‘と思ったが、‘水咲さん‘に余計なことを話すのではないかという不安にも駆られて複雑な心境であった。もちろん言い出すことはできず教室を後にし校舎前でみんなを待っている。

 

「じゃ、またな~」

 

はえーな達也、もうあんなに友達出来たのかよ」

 

「そりゃな。俺のコミュ力舐めんなよ」

 

「そりゃそうだわな」

 

「おまたせ~」

 

「詩織と院長も来たか」

 

「あとは笑子だけか。春樹同じクラスだろ?なんか知らねーの?」

 

「知らねーよ。あ、でも俺と隣の女子と話してたわ」

 

「ははっ。え?マジ?まさか成功したの?」

 

嘲笑交じりに達也が驚く。

 

「そんなわけないじゃん。大失敗だよ。」

 

その春樹の返しに「だよな」とみんなが納得する。

 

すると笑子が一人の女性を連れてやってきた。

 

「おまたせ~」

 

みんなが驚きながら連れているとなりの可憐な女の子に視線を動かす。ここで一番驚いたのは春樹だろう。

 

「初めまして。磯村水咲です。よろしくお願いします。」

 

「笑子お前。友達出来たの?」

 

「ふふっまぁね!この子も春樹と同じようにこっちに引っ越してきたんだって!仲良くしてねあげてね!」

 

この時春樹は笑子に畏敬の念を抱きながら、心の中で‘ありがとう‘と感謝の言葉を口にした。

 

「いやぁ~でも変わり者もいるんだな。よろしくな。俺は山本達也(やまもとたつや)」

 

「私は神崎詩織(かんざきしおり)」

 

「俺は宍戸海斗(ししどかいと)だ。医者の息子でみんなからは院長と呼ばれてる。磯村さんも院長と呼んでくれ。」

 

「みんなよろしくね」

 

可愛く微笑む水咲さん。春樹が見惚れていると笑子が

 

「春樹よかったね!気になってたでしょ?」

 

「ん?何言ってるのかな?」

 

いきなりの爆弾発言。今までの感謝は前言撤回。こいつは一生許さないと心に誓った。

 

「じゃあ帰ろっか!」

 

聞こえていなかったのか話を切り上げてくれたのか詩織が指揮を執り、みんなでたわいもない話をして帰宅した。

 

とまぁそんなこんなで楽しい高校生ライフが始まろうとしていた。春樹も最初はどうなることかと思ったがこれはこれでいい感じだろうと思い一日の終わりに安堵し、気が付いたら明日の学校が楽しみになっていた。

 

**********************************

 

蝉がうるさい真夏の暑い中、外は38℃にもなる。汗だくで春樹は目覚める。いつも通りの悪夢を見て目が覚める。彼女の‘水咲‘が殺される夢。少年は目が覚めるといつも泣いている。今日は2021年8月10日。彼女の水咲が殺されてからもう1週間が経つ。

 

次回に続く

ユニバース第2話中編

 そいつの風貌は地球人のそれに近いが地球人にしてはあまりに巨漢で肌が黒すぎる。そして何故か背中からゴツゴツしたものが、生えている。少しの間、明流は動かないでいると、

やめてくれ。それは大事な孫の剣なんだ!」

「ははっ!そんな大事なもんなら守れるくらい強くなってみろよ!」

「ぐぁ!うっ!」

「おい、そこのお前、誰だ?」

「えっ!あっ。うぐっ。」

「明流逃げろ!」

 いきなりのことで上手く声が出せない。そして懸命な祖父の叫び。自分は初めての状況で、足がすくんでいる。対して単純な戦闘力で言ったら明流よりも弱い祖父は懸命に剣を守るために宇宙人の攻撃に耐えている。自分が情けなかった。あれだけなりたいと言っていた宇宙軍。しかし現実は厳しいもの。身を持って知った。なのにこの仕打ち俺は何したのだろうか。たが、思考を巡らせあるうちに明流の緊張が和らいでいく。そして深呼吸をすると、

「よし!俺も男だ!うおー!!!」

「まっ...」

ドゴッ!バァン!

「うっ!はぁ、はぁ、はぁ。」

それは一瞬だった。明流が意を決して殴り掛かろうとするも宇宙人はもろともせず蹴り飛ばす。

「おいおい、まさかそれが本気って言わねーよな?」

「あぁこれから本気出すよ!」

 そう言って明流は宇宙人にむかって剣を向ける。

「てめぇ、いつの間に!」

「俺だって闘えるんだ!」

「あっ?舐めてんじゃねーよ。剣を手にしたくらいでよ。」

ヒュン!明流に向かって何かが飛んでくる。それは黒く固い刃であった。必死に避けるもそれは明流の左腕を抉る。すかさず追い討ちを掛ける宇宙人に対し、剣を振るうも届かず。さらに向かってくる無数の刃、明流は死んだと思った。

ザシュッ!

「おじいちゃん!なんで!」

それは明流にとって予想外の出来事であった。あの頑固な祖父が自分ではない誰かを守って死ぬなど。それは祖父からしたら間違った死に方なのだから。

「なんでだぁ?おめぇな知ってるか?親より先に死ぬやつは親不孝って言うんだよ。お前は生きろよ。」

「じいちゃん!昨日の朝のこと俺間違ってたよ!ごめん!俺宇宙軍に入らないから。お願いだから死なないで!」

「あ?うるせえよ。何勘違いしてるか知らねぇが俺は宇宙軍に入れって言ったぞ。」

「え?じいちゃん?」

「俺はなお前が自分で死にに行ってるんじゃないかと思って心配してたんだ。でもよ俺の勘違いだったみたいだな。だがなお前も勘違いしてるかもしれないから言っておくけどな、俺は俺の息子と娘つまりはお前の父ちゃんと母ちゃんのことは誇りに思ってる。俺の自慢の子供だ!お前のアイツらの子供なら泣きべぞかいてねぇで戦え。お前なら勝てる。なにせ俺が認めたただ一人の男の息子だからな。明流、アイツらは生きてるぞ。だから突き進め、絶対に負けるなよ。」

祖父はそう言って息耐えた。負けるなそういっていた。祖父の言葉を信じて明流は立ち上がる。

「お別れの挨拶はすんだか?」

宇宙人が小馬鹿にしながら伺う。その瞬間主人公が駆け出す。

「うぉぉぉ!」

「おいおい、何も学んでねーのかよ。真正面から突っ込むなんて。」

そして刃を飛ばす宇宙人。しかし、それを避け明流はさらに宇宙人に近づく。

「なんでよけれる!」

そしてさらにくる刃を避け、宇宙人の懐に入ったところり剣を振りかざす。

キーン!金属と金属が鳴り響く音がした。

「へ!背中にしかないと思ったか?言っとくけどな俺のこの刃は体中どこにでも移動できる。無能力でここまで近づけたことは褒めてやる。だがな俺様とは住む世界がちげーんだわ!」

ザクッ!真正面から無数の刃をもろに受ける。返り血とともに吹っ飛ばされる明流。

「ま無能力でここまでやれた褒美だ。俺の名前を教えてやる。ゴストロ・ブラトンだ!まあもう死ぬお前には関係なけどな。」

奴が話しているが何を言っているのか聞こえない。体が生暖かいのを感じる。そして明流は自分の運命を悟る。自分の死を。

(いや、違うだろう。俺はまだ死ねない!アイツを倒して宇宙軍に入って俺の親を見つけ出すまでは。力が欲しい。)

―ここから生き延びたいか?―

どこからともなく聞こえたその声は続けて問う。

―お前はアイツを倒す力が欲しいか― 

 

後編へ続く

ユニバース 2話 前編

30分前

「しっかしあいつなんなんだろうな〜。本当に現実見ろってなー。

「なぁ呂亥。もうあいつに関わんなやめておけよ。つまんねーってあんまり反抗してこないし、あいつの取り巻きがいるから心も折れねーしな!あいつが嫌いなんだろ?その超能力でボコボコにしちゃえよ!」

「ふん。お前ら凡人に何がわかる。少なくとも俺はお前ら見たいにくすぶってる奴らよりは夢見てそこにひたむきに頑張ってる奴の方が好きだぞ。」

「!?」

取り巻きと歩いている呂亥。意外解答で取り巻きも驚く。しかし、呂亥は変わってるから受け流し、話を終わらせる。

「お前はすげーよなぁ。みんなあなたみたいに夢を叶えられるほど強い人間じゃないのですよ。俺ら凡人は分相応な人生を謳歌してるよ。じゃあな〜。」


「ふん。くだらない奴らだな。しかしあいつももうちょい見込みのある奴かと思ったら、拍子抜けだったな。ん?」

 何かを見つめる呂亥。彼は何か不審な人物がいることに気づく。奴ら何をしているんだ?すぐにそれは地球人の面影でないことに気づく。

「おい!お前ら何をしている!」

「なんだお前地球人風情がやんのか?」

「な、なんだや、やんのか?」

 いきなりの宇宙人登場に縮み上がる呂亥。それもそのはず超能力が使えるとはいえ実戦はしたことがなく、ましては超能力をまともに使ったことすらないのだから。

 少しの沈黙に宇宙人たちはざわつく。

「おい!早くかかってこいよー。しっかりしてくれよ。」 

「あいつ雑魚そうだからやっちまおうぜ?」

「あーちくしょー!やってやろうじゃねーか。」

 しかし流石の呂亥。ここで逃げたら一般市民が危険な目に遭ってしまう。それどころか学校のみんなに笑われてしまう。そんなことを考えながら、気持ちを持ち直す。市民を守るためと自分の威厳を守るために決死の一撃を繰り出す。ここで彼の能力は明かさないが上手く発動し宇宙人を倒す。

「見たことか!俺には誰も勝てないんだよ。」

「カット!」

パチンと木で叩いたような音が鳴り響く。呂亥は慌てて振り返ると強面の一人の男とその取り巻き何人かが立っていた。そして中にはカメラや、マイクなどを持ってる人がいる。紛れもなく地球人だ。

「ちょっと困るよー。君宇宙軍?君たちのための宣伝で撮ってるのにさー。台無しにしないでくれよー。下手したら死んでるよ?あれ。」

強面の顔面とは裏腹に少しゆったり口調の男。呂亥は状況を悟った。だが少し納得ができない。

「そちらのキャストや着ぐるみを台無しにしてしまったことは謝罪しよう。しかしこの街中でやるのもどうかと思うぞ。」

「あー。口答えかー。やになるよ。君が宇宙軍になってままないからいいものの本当に宇宙軍だったら死んでたよ彼ら。」

「ふん。鍛え方がなってないってことだろ。」

「おめぇ!」

「そこまでだ!」

瞬間誰もが驚いた。呂亥が一目散に駆け寄る。

支部長!どうしてこんなところに!」 

「お前の覚悟を見たかった!あと皆様に謝らないといけないことがあります。ここで宇宙軍の撮影をしてくれと頼んだのはこいつが宇宙軍に入るに足るか試していたのです!」

男はそう言うと続けて

「呂亥、よく逃げず立ち向かったな。だが本当に宇宙人だったら絶対一人で戦うな!何があるかわからないからな!」

「ここで逃げたらみんなに危険が及ぶと思ったので。って支部長が見届けに来てくれんですか?」

「いや?なんかこの辺りなーんかこの辺り嫌な予感するんだよねー。支部長の感?笑」

「え?じゃあさっきのは?」

「え?あーうそうそ。」

宣伝メンバーが注目している中、聞こえない程度の小声で支部長が言う。

「ま、そう言うことで呂亥には言いたいことあるけどそれより先に・・・」

見つめる先は明流の家の方角。

呂亥は何か嫌な予感がした。

次回に続く

ユニバース 1話

 「お父さんお母さん!行かないで!!」

 「明流。絶対帰ってくるからな!」

 「絶対だよ?」

 「おう!あとなーお前に渡したいものがある。ほら。」

 「何これ?」

 「これはな。俺の一番大事なものだ。」


*************************


 10年前に宇宙人が地球に攻めてきた。謎の超能力を使う宇宙人に対抗すべく科学力で侵攻を防ぐも状況は劣勢を極めていた。


 しかし地球人にも超能力を獲得したものが現れ、状況は一変。そして地球人は宇宙人に勝利を収めた。その後近隣の星との交信に成功し宇宙同盟を成立させ、地球には宇宙軍が設立された。


 ―そして十年後―


 舞台はどこにでもある平凡な家庭。ある少年が祖父母と暮らしていた。少年は今日も、両親の写真とある一振りの剣の前に屈み込み手を合わせる。そしてそのあとご飯を食べ、学校に向かう。いつもの日課だ。


「そんないつも手を合わせてご苦労なこったな。こんなことしても親は帰ってこないだろうよ。」


 祖父だ。いつも嫌味を言いいに来るが最近は少しそれがひどくなっているように感じているが、年のせいだろうといつも大目に見ている。が、次の一言で堪えていた感情が爆発する。


「大体、人のためだか知らんが宇宙戦争なんて訳の分からないところに行くから死ぬんだよ。もう少し考えりゃわかんだろうが。くだらない死に方だよ全く。」


「なんだよそれ。まだ死んだかはわからないだろ!それに俺は父さんと母さんを誇りに思ってる!いくらお祖父ちゃんだろうとそんな言い方は許せない!」


 両親は俺に行く前に絶対帰ると言ったんだ。みんなは死んだと言っているが、死体は見つかっておらず、本当に死んでいるかがわからない以上俺は諦めきれないんだ。


「でも現に今帰ってきていなしな宇宙に放り出されたならなおのこと助からないだろ。今もあの時の行方不明者がほかの星で見つかったりしてるんだ。アイツらが見つかるもの時間の問題だね。」


「俺が宇宙軍になって探す。」


それはこの家族にとって禁句であったが怒りのあまり出てしまった言葉だった。


「てめぇまだそんなこと・・・」


ゴーン!!!


「痛ってぇな!なにすんだ!」


「やめなさい。大人げないですよ。明流あくるもこんな人の言うことなんて気にしなくていいのよ。あなたも諦めはついているんでしょ。」


お祖母ちゃんだ。俺らがくだらないことで喧嘩しているのを止めてくれたんだろう。


「ほらご飯できてるよ。みんなで食べましょ!」


さっき喧嘩した所為かすごく気まずい。無言のまま食事を終え、学校に向かう。おじいちゃんと目を合わせるも無言。


「行ってきます!」


無音の家の中で俺の声が響き渡る。


「行っちゃいましたよ。あの子も諦めは付いているんでしょうからあんまり言わない方があの子にとってもいいと思いますよ。」


「あいつはまだ諦めてねえよ。目を見ればわかる。それにさっきの発言も。超能力も使えないのに宇宙軍に入るなんざただの雑用になるに決まってる。アイツの悲願が叶うことなんてねえんだ。だから俺が現実を教えてやらなきゃならねぇんだよ。」


「気持ちはわかりますけどあの子も若いんだから切り替えられないところもあるんですよ。帰ったら謝ってくださいね。」


「わかったよ。俺もさすがに今日は言い過ぎたと思ってるよ。」


*************************


 少年の名前は織宮明流おりみやあくる17歳の高校3年生だ。ツーブロックでアップバンクヘアーの今どきの髪型でどこにでもいる若者といった感じだ。彼はあるきっかけがあり、宇宙軍に入ることを目指していた。だが、その夢も先日崩れ去ったのだ。


 何があったのか簡単に説明すると彼には超能力を扱う才能がないらしく、最前線で活躍するのは難しいとのことであった。しかし彼は宇宙軍には医療や、化学、無能力の軍隊などもあり現在その方向での活躍を目指している。


 場所は変わり学校


「おっす明流!」


「おはよー。」


元気よく挨拶をするのは彼の小学校からの親友である木崎陽史きざきようじである。明るい性格であり、いつも元気で回りからムードメーカーとして慕われている。彼が明るくなったのも明流のお陰でありいじめにあっていたのを明流に救われたのがきっかけだ。そのせいか正義感が強く常に弱い者の味方で自分も強くあるために自信もボクシング部に所属している。


「なんか元気ないじゃない」


話しかけたのは幼馴染の圓谷光莉つぶらやひかり。こちらは家が近いことと親同士が知り合いということもあり昔からの腐れ縁的な存在だ。彼女は人のことをよく見ており、面倒見がよく同い年とは思えないほど大人びている。そのことから両親が帰ってこなかった時は彼女の言葉で大分自分の気持ちが軽くなったのを今でも覚えている。


明流は今朝あったころをざっくりと話した。


「おじいちゃんも心配してるんだって。超能力使えなくたって危険と隣り合わせなんだぞ。なんか死ぬ可能性がある的な誓約書も書くらしいし。俺も親になったことねーからわからねーんだけどさ、息子が、まあ孫か。どっちでもいいや!自分の大切な人が自ら危険を冒そうとしているのを止めない親はいないと思うけどねー。」


「あんたまじめなこと言うのね。私も小さいころから知ってるけど悪い人じゃないんだからあなたも少し大人になって謝っときなね。それにもういつ死んでもおかしくないんだからこれが最後の会話にならないように。」


「おい!言い方!


「あ!ごめん!」


光莉は一言多いところがありそれは周りからよく思われないこともしばしば。だけど二人が言っていることは最もだ。おじいちゃんは両親がいなくなってから本当の子供のように育ててくれたし何も不自由を感じたことはない。朝の発言も俺を思ってのことだろう。


「二人ともありがとう。帰ったら謝るよ。」


2人は笑顔で頷く。


「そこにいるのは誰かと思ったら無能力者明流くんではないか。そんなところで何してるんだい?」


皮肉を言ってくるのは宍倉呂亥ししくらろいである。彼とは高校から知り合い、彼も宇宙軍に入りたいらしく意気投合しよく情報共有やくだらない話などで盛り上がる中であった。彼には超能力の才能があるらしく、高校卒業と同時に宇宙軍の入隊が決まっている。それもあってか彼は俺を見下すようになった。根はいいやつで嫌いではないが最近は少し鬱陶しく感じることもある。


「何の用だよ。」


「いや、なにも?超能力に選ばれなかった君は今後どうするのかと思ってね?」


「他の部隊を目指す。これ以上話すことはないだろ。」


「他の部隊?はっはっはっははっはは!これは傑作だ!それで本当に宇宙に行けると思っているのか?化学班や医療班は専門的な知識がなけりゃ厳しいしかなりの競争率、無能力部隊だと超能力部隊の壁になって死ぬこともあるしそもそも超能力者に対抗できないから一般の犯罪者の確保から雑用しかできない。そんなんでお前満足なのか?お前の親を探すって気持ちはそんなもんか?ww」


「やってみなきゃわからないだろ!」


「明流!」熱くなる俺を光莉が制しさせる。


「こんな奴とまともに話しても気分が悪くなるだけでしょ!行くよ!」


「まぁせいぜい頑張れよ負け犬ww」


呂亥の取り巻きも笑っている。


―キーンコーンカーンコーンー終了のチャイムが鳴り響く。


下校の時間である。


下校中3人は呂亥の話題で持ち切り。


「アイツなんであんなこと言うかね」


「浮かれてるんでしょ。自分が特別なんだって思ってんのよ。」


「でも超能力者も多いわけじゃないからな一年に一人もいない時もあるんだろ?そう考えれば特別だよな」


「陽史?」


「あ!ごめん!」


完全にデジャブ。二人は似た者同士なんだな。


「いいんだよ。おかげで諦めがついた。俺にはおじいちゃんや、おばあちゃん、そしてお前らが居てくれれば何もいらないよ。俺は幸せ者なんだって今日改めて思ったよ。ありがとう。」


「・・・」二人は少々沈黙する。その沈黙を振り払うように「なんだよ~うれしいこと言ってくれるじゃん~!俺らはずっ友だな!」


「え~気持ち悪いやめて~」光莉は気持ち悪がるがまんざらでもなさそう。


2人の笑顔を見ていると俺は幸せ者だと、さらに実感できた。もう不釣り合いな夢を追うのはやめよう。そう決意した。


「また明日な~。」


彼らとは途中で別れ自宅につくとなんだか嫌な予感がしてとっさに家に入る。


静まり返っている家の中。いつもなら「ただいま」と一声あるもののそれもない。明流は焦る。そして家の中を必死に探す。


―どうしてだよ。なんでいない。いつもいるのに。買い物?そんなわけがない。用事があるならいつもお祖母ちゃんは俺に言う。それにどっちかは家にいるはずだ。返事がないなんて。どういうことだ。これで最後?あれが?いやな想像がよぎったその時!


「!?」明流は思考停止した。目の前の光景が想像絶するものであったからである。そこには血まみれの祖母の姿が、そして親の形見の剣を必死に何者かから守っている祖父の姿。そしてその何者かは明らかに異形の姿をした宇宙人。超能力者であった。  


次回に続く